AIで生成したサイトのデザイン案を5名に見せた実験。配色やフォント、レイアウトへの評価が見事に割れ、人間の感性とAIデザインの関係性から得られた実務への示唆をまとめます。
「AIで作ったLPデザイン案を社内で見せたら、見事に意見が割れたんですよ」──先日、知り合いの制作チームから聞いた話です。聞いていて、これはAI時代の本質をかなり的確に突いている、と感じました。AIの話のようでいて、実は人間の話をしているからです。
AI関連の記事はどうしても「Claudeがすごい」「ChatGPTがすごい」「Geminiがすごい」になりがちです。でも、現場でLPやバナーを発注している人が本当に知りたいのは、ツールの優劣ではありません。「で、結局どう判断すればいいの?」のほうです。今日はその話を、ひとつの実験を題材にして整理します。

まず前提から整理します。2026年のいま、AIにLPやバナーのデザイン案を出させるのは、ほぼコストゼロです。Claudeでも、ChatGPTでも、v0でも、Figma AIでも構いません。条件を変えながら、A案・B案・C案・D案と並列で投げれば、数分で4方向性のたたき台が揃います。
たとえば、こういう投げ方になります。
A案:信頼感重視のLPを作って
B案:親しみやすさ重視のLPを作って
C案:高級感重視のLPを作って
D案:成果数字を全面に出したLPを作って
昔は、1案つくるだけで数時間〜数日かかっていました。「方向性ごとに4案ください」なんて言おうものなら、デザイナーから露骨に嫌な顔をされる仕事でした。それがいま、ボタンひとつで揃います。これ自体は、本当に革命です。
しかし、ここで現場ではこういう問いが立ち上がりました。
「これ、人によって好み変わるんじゃないか?」
素朴な疑問ですが、ここに、AI時代に本当に効いてくる論点が潜んでいます。
知り合いの制作チームがやった実験は、シンプルでした。AIに同じ条件で4案つくらせる。そのうえで、社内外の5人に並べて見せて、「どれが一番グッときますか?」と聞く。それだけです。
予想は、こうでした。「だいたいA案かD案に票が割れて、2:3くらいに落ち着くだろう」。信頼感重視か成果重視か、という王道2択に集約されるだろう、というよくある読みです。
ところが、結果は予想を裏切りました。

5人全員、違う案を選びました。しかも、それぞれにちゃんと理由がありました。
Aさん「A案がいちばん安心感がある。BtoBはこれでしょ」
Bさん「いや、B案のほうが信用できる。固すぎる会社はかえって怪しい」
Cさん「私はC案。高単価サービスならこの世界観じゃないと無理」
Dさん「絶対D案。数字を出さないLPは負け」
Eさん「正直、どれも違う気がする。もう一案ほしい」
面白いのは、誰も「なんとなく」で選んでいないことです。全員、自分の中にある「想定顧客像」を投影して、その人にとってベストだと思う案を選んでいました。同じ4案を見ているのに、頭の中で見ている"お客さん"が全員違っていた、ということです。

この実験から見えてきたのは、AIの限界の輪郭です。
AIは、「良いデザイン」を作ることはできます。配色のバランス、フォントの選び方、レイアウトの整い方、コピーのリズム──このあたりは、もう普通に80点を出します。デザイナーが数日かけて出していた水準を、数分で並列に出せる時代です。
しかし、AIには決められないことがあります。
「誰にとって良いデザインか」
ここだけは、AIに丸投げできません。なぜなら、誰に向けて売るのか、その人はいまどんな状態か、何に困っていて、何を信じていて、何に警戒しているのか──こうした情報は、事業をやっている人間の頭の中にしかないからです。AIはそれを推測することはできても、決めることはできません。
AIができること | AIができないこと |
|---|---|
方向性の違う案を並列で量産する | どの方向性を採用するか決める |
整ったデザインを高速で出力する | 誰に向けたデザインかを定義する |
ベストプラクティスを反映する | 自社の文脈で例外を許容するか判断する |
大量のコピー案を出す | どのコピーが事業の本質を捉えているか選ぶ |
右側はすべて、人間の「判断」です。事業を理解していないと、そもそも問いが立てられない領域です。5人に見せたら5人とも違う案を選んだ、というのは、見方を変えれば「5人とも、別々の判断軸を持ち込んでいた」ということでもあります。AIはその判断軸自体は持っていません。
同じ話を、時系列で並べるとよりはっきりします。
昔の制作フローは、こうでした。

ここで一番時間がかかっていたのは、「丁寧にデザインする」の工程です。スキルと時間が両方必要で、そこがそのまま値段になっていました。だから「作れること」自体に価値がありました。
いまの制作フローは、こうなっています。
工程の重心が、「作る」から「決める」へ移っています。作る工程はAIが圧倒的に速くなったので、相対的に「決める」工程が、プロジェクト全体のボトルネックになりました。ここで判断を誤ると、AIで大量に作った時間も、広告で集めたアクセスも、全部無駄になります。

もう少し解像度を上げます。AI時代に人間に残った「決める仕事」は、抽象的に言うと判断力ですが、現場ではもっと具体的なタスクとして現れます。LP制作の文脈で言えば、こうです。
工程 | AIに任せる部分 | 人間が決める部分 |
|---|---|---|
ターゲット設計 | ペルソナ案の量産 | どのペルソナで勝負するか |
デザイン方向性 | 複数案の同時生成 | どの方向性を採用するか |
コピー | 30案の量産 | 事業の本質を突いた1案の選別 |
CTA設計 | ベストプラクティスの提案 | 自社のオファー設計と配置判断 |
改善運用 | 仮説の量産・検証の高速化 | 次の一手の優先順位づけ |
並べてみると、AIに任せる部分は「量産」、人間が決める部分は「選別と判断」に綺麗に分かれます。量産が速くなったぶん、選別と判断の質がそのまま成果に直結する構造です。AIで作ったLPで成果が出ないケースは、ほぼ例外なく、ここの「決める仕事」を誰もやっていないか、片手間でやっています。
とはいえ、「決める仕事が重要」とだけ言われても困ります。実務で回すための、小さなコツも一緒に置いておきます。冒頭の5人実験から逆算した形です。
誰に決めてもらうかを先に決める:意思決定者を1人に絞らないと、5人いれば5方向に割れます。「全員の意見を聞く」は、合意ではなく迷走のはじまりです
判断軸を言語化してから案を見る:「誰に・何を・どんな状態で届けるか」を先に書き出して、それから案を見る。順番が逆だと、見た目の好みで全部決まります
採用案より、不採用理由のほうを記録する:「なぜB案を選ばなかったか」を残しておくと、次に改善ループを回すときの軸が積み上がります
AIに案を増やしてもらう前に、判断軸を更新する:案を増やしても、判断軸が同じなら同じ景色が見えるだけ。先に軸を直すのが先決です
ポイントは、「AIに案を増やさせるのは無料、人間が決める仕事は有料」という前提を、チーム全員で握ることです。ここを握れていないと、「AIにもう一案出してもらおう」が永遠に続いて、決まらないまま時間だけが溶けます。
長くなったので、この記事の論点を1枚で整理しておきます。
AIで4案を同時生成し、5人に見せると、見事に5方向に意見が割れる
これは"好みの問題"ではなく、5人が頭の中で別々の顧客像を思い浮かべていた結果
AIは「良いデザイン」を作れる。でも「誰にとって良いか」は決められない
制作フローの重心は、「作る」から「決める」に移った
「決める仕事」は、ターゲット設計・方向性の採用・コピー選別・CTA設計・改善優先順位など、事業理解が必要な領域に集中している
意思決定者を絞り、判断軸を先に言語化することで、「決める仕事」は社内でも回せる
AI時代に消えたのは"作る苦労"であって、"決める仕事"ではなかった。むしろ決める仕事の価値は上がっている
結局のところ、AIは案を無限に出してくれる代わりに、「どれを採用するか」という問いを毎回突きつけてきます。昔は、その問いに直面する回数自体が少なかった。1案つくるのに何日もかかっていたからです。いまは1日に4回でも10回でも、その問いが飛んできます。
だからこそ、最近の制作現場でいちばん強く感じている変化はこれです。AIを使うほど、人間の判断が重要になる。AIは、人間の仕事を奪ったのではなく、人間の仕事の中身を「作る」から「決める」へ静かに置き換えていきました。この置き換えに気づいて準備できた会社から、AI時代のLPでも普通に成果を出しはじめています。
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